高橋孝二
ミャンマー国軍のクーデターで拘束されたアウンサンスーチー氏ゆかりの日本刀の修復が、岡山で順調に進んでいる。今秋の終了が見込まれ、職人らはスーチー氏の身を案じつつ、引き渡しの日が来るのを待つ。
刀は備前伝を得意としていた人間国宝の刀匠・高橋貞次(1902~68)が鍛造したもの。第2次大戦中にミャンマー方面担当に就任する陸軍中将に贈られ、その後、スーチー氏の父で独立運動の英雄アウンサン将軍に渡った。アウンサン将軍が1947年に暗殺された後はスーチー氏が所有していたとみられる。
刀身のさびなど劣化が進み、スーチー氏側から修復依頼を受けた日本財団(東京)が瀬戸内市に相談。県内の職人らが修復することになった。
作業は昨年11月、同市の備前おさふね刀剣の里で始まった。刀を研ぐ工程のうち、最初の段階にあたる「下地研ぎ」を担ったのは研ぎ師の横山智庸(とものぶ)さん(49)。全国的な公募展で優秀な評価を受けた職人だ。横山さんが丹念にさびを落とす作業を続けていた2月初め、スーチー氏の拘束が分かった。それ以降、スーチー氏側からの連絡はないままだという。
刀は4月中旬、刀を保護するハバキと呼ばれる金具の制作に移った。岡山市の白銀師・小池哲さん(59)は「ミャンマーが平和な状態に戻って刀を渡せれば」と願い作業したという。
現在は倉敷市の鞘師(さやし)・石崎三郎さん(70)のもとで白鞘づくりが進む。石崎さんも「スーチーさんの無事を祈りたい」と話す。
刀は8月末ごろから最後の仕上げとして、横山さんが刃文がきれいに出るよう研ぐ予定。引き渡しのめどは立たないが、横山さんは「輝きを取り戻し、備前伝の日本刀らしい華やかさが見えるようにしたい。この刀が日本とミャンマーのかけはしとなれば」と語った。
修復後は市内での公開に意欲を見せていた瀬戸内市の武久顕也市長も、「スーチー氏の安否が何より心配です」と話していた。(高橋孝二)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル